朝、妻が息子を幼稚園へ送るのを見送った後、コーヒーを飲んでいた。
髭は、まだ剃っていなかった。髪も、ぼさぼさだった。
突如、電話が鳴った。
「幼稚園に今日持って行く花を置き忘れきたから、持ってきて。」
その花は眼前に飾ってあった。ピンクと赤のバラである。
最早、猶予は無い。
現状の姿のまま、バラの花束を掴み、サンダルを履き、二人を追いかけた。
妻と息子を視認した時、通学中の高校生二人が向かってきた。
すれ違いざま、高校生は大きく二手に分かれ、道を開けてくれた。
心の中でつぶやいた。
「ありがとう。でも、私にも事情があるんだよ。」